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2014年5月25日 (日)

フランス文学での娼婦の位置づけ

昨日に続いて、モンブラン伯爵の話。

 

 『妖人白山伯』は、モンブラン伯爵を主人公として史実と史実を、作者のエロティックな糸でつないだ本だと前回書きましたが、こんな記述があったからそう思ったのです。

慶応3年のパリ万博のために、薩摩から岩下方平一行がやってきたのですが、マルセイユに着いた彼らをモンブラン伯爵は怪しげな一角にあるホテルに連れてきます。何と、そこで、ここではとても書けない怪しげな光景を見せるのです。

「モンブランが扉を閉めると、薩摩藩の3人の男たちは、あの女は知り合いなのかと尋ねた。モンブランが実はそうだと答え、娼婦だから、よろしけれはお相手させようかと申し出ると、3人は異口同音に、是非そうして頂きたいと答えた。」

 かくして、薩摩藩ご一行は、モンブランへの警戒心を解き、絡め取られていくのです。

実際に岩下氏一行がこのようなメゾン・クローズ的接待を受けたかどうかは誰にもわかりませんが、このような施設があったことについては、鹿島氏はきちんと裏をとっていることが、次の記述からわかります。

「なお、このマルセイユの覗き専用ホテルは、その後、マルセイユに旅装を解いた日本人旅行者が最初に文化ショックを受ける定番の劇場となったようだ。文化勲章受章者の河盛好蔵氏も、マルセイユで先輩の日本人に案内されて、この部屋でエロスの饗宴を堪能したと、『巴里好日』で回想されている。」

 鹿島氏は文章はなかなか上手だと、いつも思います。ついでに、権威ある大学の先生なのに、まるで週刊誌の囲み記事のような語り口の話を書いて大丈夫なのかなあと心配にもなります。

 『妖人白山伯』での、いろいろな日本の有名人がふらんすお政によって骨抜きにされていく様子もおかしいし、モンブランが男色家という設定も大胆です。特に、ふらんすお政は大活躍で、パリ万博での芸者さんをやったり、井上 と結婚したりしています・・。でも、様々な場面で、ヴェルレーヌ、ボードレール、アナトール・フランスなどがちょい役で登場するのも笑えるし、モンブランの住居がメゾン・ヴォケールというのも気が利いています。メゾン・ヴォケールはバルザックのゴリオ爺さんが住んでいた家の名前ですから、さすがバルザック研究者らしい設定だと感心した次第です。

 

 鹿島氏には山師の男色家と書かれたモンブラン伯ですが、本当の所はどうだったのでしょうか。

前回ご紹介した『ベルギー貴族モンブランと日本人』のむすびを読むと、モンブランは詐欺師ではなく、むしろ政商、山気の多い企業家だと評価しています。もちろん、人一倍虚栄心が強く、目立ちたがり屋で、富や名声を求めていたということも事実なのでしょう。

モンブランは、政府や政治家に取り入って特権的な利益を得ようとして、幕府に接近しましたが失敗したので、今度薩摩藩に接近し、合弁会社設立を提案しますが、やはりこちらも失敗しています。しかし、幕府に採用されなかったにしても建白書を出させたり、日本初めての修船所(ドック)の建設に貢献したりしたことなどはもう少し評価されてもいいのかもしれません。

 

さて、鹿島氏は、学者として真剣に「娼婦」に向き合っているのですが、その原点は次の記述にあるように思えました。

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パリ娼婦の館』からの引用ですが:

故・河盛好蔵先生は、常々、「19世紀のフランス文学というのは基本的に、姦通文学か、さもなければ娼婦の文学です」と語られていたが、確かに、バルザックにしろ、ゾラにしろ、モーパッサンにしろ、ヒロインは、浮気する人妻でなければ、みな娼婦である。若い堅気の女の子が主人公になっている小説というのはほとんどない、さすがは、19世紀文学を深く読み込んだ河盛先生らしい評言である

そう言えば、オペラ『椿姫』を語るために長々と高級娼婦についてレクチャーする『椿姫とは誰か』(永竹由幸作)という本もあったことを思い出します。かくして、フランス文学やオペラなど芸術を理解する上では娼婦の存在が重要らしいです。

 

そうそう、『パリ娼婦の館』にはこんな興味深い記述もありました。

昔から、王侯や高貴な方々をお店に案内するのは外務省接待官だったそうですが、公式日程ではそのことを『上院議長御訪問』と称したそうです。作者は、この点について、現代日本との共通点を指摘しているのです。

「・・公式訪問の王族貴族や政府首脳の場合、メゾン・クローズ訪問は「上院議員御訪問」と言う形で日程表に書き込まれるが、在パリ日本大使館の元職員から聞いた所によると、「視察」目的でパリを訪れた日本の代議士たちも、似たような名目で日程表を埋めるということだった。この手の「視察」代議士達があまりに多いので、日本大使館はさるメゾン・クローズ(今でも某所に存在しているらしい)と専属契約を結んで、代議士から要求があるとそこに連れていくことにしているとのこと。」

 視察ですから、当然経費で落としているのだと思うと腹が立ちます。



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コメント

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投稿: Johng732 | 2014年5月26日 (月) 06時49分

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